2018年3月1日木曜日

携帯電話向けASIC・テストタイム短縮が急務

筆者のキャリアを変える製品となった携帯電話向けASIC製品ですが、設計完了して試作評価も終わり、信頼度試験も終わって量産出荷開始となった後、さほど生産量も多くなく生産が収束しました。こちらは一番大きなキャリア向けの製品だったのですが、さほど数が出なかったのです。

しかし、他のキャリア向けの製品として、論理変更、ROM変更を施した展開製品の開発がありました。

こちらは、最初の製品で出た様々な問題をフィードバックして、開発はスムーズに進んだと記憶しています。

特性評価は、開発の実務を仕切ってくれた若い実務担当者に、評価結果のまとめ方、設計部見解の考え方、書き方を学んで欲しかったので、筆者が作成した評価結果まとめ(社内では特製認定書と呼んでいました)を参考にしてもらって、やってもらいました。

量産出荷スタートの後、色々と問題が出ました。

携帯電話ビジネスでは、生産数量の増減がとても急激に起こります。しかし、注文が急激に増えたとしても、工場の物理的な生産能力はすぐに増やすことはできません。そこで大事なのが、既存の設備で何とかできないかを検討すること。ことテストに関しては、時短、つまりテストタイム短縮です。

急激な生産量の増減への対応が難しい


 携帯電話ビジネスは、端末がヒットすれば急激に数量が増えます。この数量増についていくのは、結構厳しいのです。この当時、半導体製品の量産品というのは、筆者がいた会社では、営業が工場に注文を入れてから3ヶ月ぐらい経たないと納入されない、という生産サイクルだったのです。つまり、お客様からの注文で増産指示を出しても、出てくるのは3ヶ月先。

今はもう少し短納期対応ができるようになっているかもしれませんが、試作品と違って量産品はリードタイムが長いのです。

また、ASIC製品というのはカスタム品ですから、当然納入先は1社だけです。したがって、作り置きして、余ったら他社仕向けに回す、なんてこともできません。

しかし、最終セットの市場は、そんなのんきな世界ではありません。

このような事情から、営業さんには常にお客様と連絡を密にしてもらって、注文の見込み数量の精度を高くしてもらうと同時に、工場にも数の不足が起こらないかどうかの確認、販売推進部門には、日程通り納入されるかどうかの確認など、通常の製品に比べると色々と手間がかかっていました。

ただ、工場が持っている生産能力の範囲で済む話であれば、このような調整で済むのですが、時として生産能力を超える注文が入ることがあります。

ウエハテストの能力が足りない


前工程(シリコンウエハを作る工程。プローブテストも含みます)から、テスターのテスト能力が不足するので、テストタイム短縮を検討できないか、という依頼が来ました。お客様からの注文が生産能力を超えそう、ということになったのです。

テストタイム短縮とは言っても、量産にテストプログラムを渡す時点で、普通に出来るテストタイム短縮はやり切っています。それどころか、普通はやらないテストパターンの連結もやっている状況だったので、普通以上のテストタイム短縮は適用していたのです。これは一筋縄でいく話ではありません。しかし、何か対策しないと生産量がお客様のご要求に応えられないことになります。

生産量がご要求を満足できないということは、お客様のビジネスチャンスを逃す原因となるので、なんとしても避けなければなりません。

そこで、以前テストタイム短縮のエントリーを設けましたが、そのエントリーの「さらなる手はあるのか?」で書いた、不良率の低いテストを抜く検討をすることになります。

どうやってテストタイムを削るのか


普通に出来るテストタイム短縮は、すでにやり切っているテストプログラムに対して、一体何が出来るのか、と言えば、テストを抜くことぐらいしかありません。

品質保証部門の方にも入って頂いて、色々と協議した結果、


  • ファンクションテストは不良率の極端に少ないものを抜く
  • DCテストは組立後のテストとウエハテストと合わせ技で実施(ただし、端子リークテストは除く)


ということにしました。

ファンクションテストのテストパターン適用除外


ファンクションテストについては、量産品数千個についてデータログを取得してもらって、不良率が1桁パーセント以下のテストパターンを適用除外することにしました。

故障検出率の高いスキャンテストパターンをファンクションテストの冒頭に持ってくると、例えばスキャンテストの故障検出率が95パーセントだったとすると、スキャンテストパターンで回路全体の95パーセントのゲートの故障を検出できます。つまり、単純に0か1に出力が固定されてしまうような故障の95パーセント程度はこのテストパターンで検出できます。

スキャンテストがパスしてしまえば、回路全体の95パーセントは故障していないので、残りのテストパターンのうち、かなりの本数のパターンは必ずパスしてしまう可能性があります。

しかし実際には、スキャンで検出できない、回路全体の5パーセントの故障、もしくは実動作に近いスピードでテストしないと検出できない、遅延性の故障の検出をしているテストパターンもあり、それ程多くのテストパターンを適用除外することは出来ませんでした。

DCテストのテスト項目調整


DCテストの中でも、出力レベルやプルアップ/プルダウン電流は、温度依存性があっても、その傾きにはそれ程バラツキが大きく出なかったと思います。つまり、スペックの決め方に気をつければ、1点測定でも動作温度範囲での特性保証ができるだろうという項目です。

このことから、出力レベルやプルアップ/プルダウン電流はウエハテストでの測定を代表ピンだけにして、全ピンのテストは組立後選別で実施、としました。

ただ、DCテストの中でも、入力ピンや双方向ピンのリークテストは、ゲート破壊を検出する大事な試験なので、変更なしにしたと思います。

色々見当して、テストの適用除外を行いましたが、劇的なテストタイム短縮はやはり難しくて、1秒も削れなかった、というレベルだったと思います。ただ、たとえ500msの短縮だったとしても、塵も積もれば山となるではありませんが、工程全体で見るとそれなりの効果にはなったと思います。さすがに生産量を倍にしろ、という話ではありませんのでね。

前工程の努力とテスト適用除外によるテストタイム短縮で、お客様のご要求をショートさせるような事態には至らなかったのだろうと思います。

このような、開発の後の量産出荷ケアもしっかりやって、万全の体制作りを筆者の当時の上司がやってくださった携帯電話向けASIC2製品でした。

最初の製品は冒頭でも書いたようにさほど数量は出ませんでした。(写真左側の電話機向け)

しかし、論理変更とROM変更を行ったNCC向け製品は、3キャリアに採用されて、半年間で180万個ぐらいの出荷があったと記憶しています。写真右側は、そのうちの1機種です。

蛇足ながら、左側のセットは、首都圏での発売がありませんでした。私は八王子在住ですが、首都圏での発売がなかったのがとても残念で、悔しいと思っていました。

たまたま家族で仙台に行く機会があり、仙台のキャリアショップをのぞいたら、置いてあったんです。

すかさず機種変更して、入手しました。

すでにPDCはサービスが止まってから随分経ちますが、この電話機は一生の宝物です。

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